離婚しない場合の不貞行為に基づく慰謝料請求について
不貞行為の相手方が、婚姻関係を知りながら不貞行為をしていたのであれば、別居中など婚姻関係が破綻していた場合などを除いて、原則として、不貞行為の相手方に対して慰謝料請求が認められます。
この場合、配偶者と離婚する意向であれば、配偶者、及び、その不貞行為の相手方に対し、慰謝料請求をすれば良いので(立証の問題はあるとしても)、あまり問題はありません。
問題となるのは、不貞行為をしていた配偶者と離婚しない場合です。
すなわち、離婚はしないが、不貞行為の相手方は許せないので、慰謝料請求をしたいという場合が問題です。
というのも、前記のように、一方配偶者から他方配偶者の不貞相手に対する慰謝料請求が法的に可能であっても、他方で、不貞相手から、他方配偶者に対する慰謝料請求が認められると、2つの事件は別事件とはいえ、「夫婦の財布は一緒」なので、結局、藪蛇になってしまう可能性があるからです。
そこで、配偶者があることを知りながら情交関係を結んだ者の慰謝料請求が認められるのか、が問題になります。
この点、自ら公序良俗に反する行為をしながら、これを理由に慰謝料請求をすることは民法708条に示された法の精神にかんがみ許されないとの考えもあります。
しかし、最高裁昭和44年9月26日第2小法廷判決(最高裁判例集23巻9号1727頁、家月22巻2号35頁、最高裁裁民96号641号、判タ240号141頁、判時573号60頁)は、
「思うに、女性が、情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知っていたとしても、その一時によつて、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求が、民法708条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に解すべきではない。すなわち、女性が、その情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、右情交関係を誘起した責任が主として男性にあり、女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は許容されるべきであり、このように解しても民法708条に示された法の精神に反するものではないというべきである。」とし、
本件事案では
① 婚姻する意思がなく、単なる性的享楽の目的のために、異性に接した体験がなく若年で思慮不十分である女性につけこんでいること
② 妻とは長らく不和の状態にあり妻と離婚して結婚するなどの詐言を用いて欺いていること
③ 結婚できるものと期待しているのに乗じて情交関係を結び以後は妊娠が発覚するまで1年有余にわたって情交関係を継続したこと
などを認定した上で、違法性が著しく大きいとして慰謝料請求を肯定しています。
下級審においても、「独身であると偽って交際し、妻子がいることが発覚した後も妻とは離婚するなどと告げて交際を続けたために妊娠した事案」(東京地裁平成18年8月8日判決 判例秘書)などで、慰謝料請求が認められています。
これらの事案で、一番問題なのは、言うまでもなく、不貞行為をしていた配偶者です。しかし、この不貞行為をしていた配偶者が、当該不貞行為の相手方に、どのような詐言を弄していたのか、どのような言動のもとに相手方と交際を継続していたのか、はっきりとはわかりません。
したがって、不貞行為をされた側の配偶者が、不貞行為をしていた配偶者を許し、今後も婚姻関係を継続していく場合には、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求は、かえって藪蛇になることもあり、慎重な検討が必要と思われます。