刑事弁護における否認事件  雑感

 弁護人、あるいは弁護人になろうとする者(以下単に「弁護人」といいます)として、被疑者に初回接見をしたときに、「やっていません」と言われたときどうするか、という問題を少し考えてみたいと思います。
 
 当然、弁護人としては、被疑者の言い分(事実関係)を自白事件(認めている事件)以上に詳しく聞くことになります。
 
 「やった」とか「やっていない」とかは、どうしても評価が入っているので、細かく事実関係を聞いていきます。というのも、被疑者本人には、どの事実が犯罪成立要件として重要なのかの判別ができないことが多いので、捜査官から「やっただろう」と聞かれて、「やりました」と単純に答えてしまうこともあるからです。
 逮捕事実、勾留事実との間の食い違いについては、どこが食い違うのか、その事実は犯罪成立要件においてどのような意味を有するのか、その事実を裏付ける証拠はあるのか(ありそうなのか)、あるいは事実というよりは法的評価が問題なのか、など詳しく聞き取りをします。


 その上で、とりあえずの弁護方針を決定することになります。


 この段階では、検察側の証拠を見ることができない状況です(取調べにおいて何が聞かれているのかによって、どのような証拠がありそうか、多少の推測はできますがそれも推測です)。その中で弁護方針を決定していくことになるので、なかなか判断が難しいのです。
 しかも、人質司法(いったん身柄を拘束されると自白をしない限り、比較的軽い犯罪であっても容易に釈放を認めない司法の在り方などを指して言われる)といわれる現状も考えると、どのような方針でいくべきかは、被疑者の今後の生活にも重大な影響を与えます。
 そのため、被疑者の意向を中心に、その被疑者が初犯か、事案の内容はどうか、共犯事案なのかなど、総合して判断していく形になろうかと思います。前記のような人質司法といわれる現状の中では、身柄解放のための弁護活動が奏功しないことも多く(だから、争わないということでは勿論ありませんが)、否認事件ではなおさら困難な状況になります。
 「できるだけ早く身柄を開放したい、しかし、署名拒否、黙秘を貫いて否認すれば身柄拘束が長期化するリスクがある。他方、たとえ軽微な事案であっても、やっていないと言っているのにやりましたと言いなさいとはアドバイスはできない」というようなジレンマに陥るわけです。他にどのような証拠があるのか不明なので、その証拠次第では、身柄拘束が長期化した上に有罪判決を受けるというリスクもあります。
 経験的には、「長期化しても良いから頑張る」という被疑者の強い意向が確認できるのであれば、黙秘・署名拒否で全く問題はないのですが、通常は、「やっていない。だけど、早く身柄を開放して欲しい」ということのほうが多いと思います。否認事件であっても「保釈」が容易に認められる状況にあるのであればまだ良いのですが、否認事件の場合、起訴後も検察官立証が終了するまで「保釈」が通らないことも多いと思います。そのため、前記のような人質司法という現状の中で、弁護人としては非常に悩むわけです。
 最終的には、否認した場合に予想される不利益を被疑者に話した上で、法的に許容される可能な範囲で被疑者に有利な方法を示した上で、最後は被疑者に決めてもらう形になると思います。実際には、勾留段階で署名拒否を貫いて処分保留で釈放になることもありますし、その逆に起訴されて有罪になることもあります。
 さらにまた、否認事件として弁護活動している中で、被疑者から(場合によっては起訴された後)、「すみません。実はやっていました。」などと言われることもあり、今までの悩みはなんだったのかと思ったりすることもあります。


 いずれにしても、否認事件は、場合によっては自白事件よりも、被疑者に不利益を生じる場合があるので、接見を重ねて、十分に聞き取りをする必要があると思われます。刑事訴訟法には、「無罪推定の原則」があると言われますが、実際に刑事弁護をしていると、裁判官は「有罪の推定」をしているのではないかと感じることも多く、そのため、否認事件については、なおさら慎重な方針決定が必要と思っています。


※ なお、刑事弁護も奥が深く、また、弁護人によって考え方も異なるので、あくまで私の個人的な考え・悩みであることをお断りしておきます。

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